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『暴走する資本主義』とコーポレート・ガバナンス
(投稿日:2008年9月1日 No.3)
日本コーポレート・ガバナンス・フォーラム事務局長 大楠 泰治
私が勤務しているクレディ・スイス・グループは、スイスの2大銀行の一つだが、昨年トップに米国人が起用された。女性に参政権がない等、スイスの保守的な風土を考えると、極めて珍しいことである。日本のメガ・バンクの頭取に、米国人が任命されることを日本人の誰が想像できるだろう。言わなくても分かり合える日本人の特殊性だとか、箸の上げ下ろしまでうるさく指導する金融庁の存在など、いくらでも米国人では頭取が務まらない理由を挙げることができる。
ただ、日本の企業風土にも変化の風が吹き出した。ソニーのハワード・ストリンガー共同CEOに続いて、今年日本板硝子の社長に51歳のスチュアート・チェンバース氏が任命された。日本板硝子は、1918年に設立された古い企業だが、自社よりも売上規模が大きい英国のピルキントン社を2006年に買収した。日本板硝子の経営者から聞いた話だと、世界の競争で生き延びるためには、ピルキントン社の買収しかないと思い、市場で株を買い始めたのが2000年からである。紆余曲折を経て、念願の買収が成立したが、予想していた以上にピルキントン社の経営内容が素晴らしいことが分かったという。それから2年後、日本の本社に英国人が社長として迎えられるとは、誰も予想できなかったに違いない。
クリントン政権で労働長官をし、現在はオバマ民主党大統領候補の政策アドバイザーを勤めているロバート・ライシュ教授(カリフォルニア大学)が著した『暴走する資本主義』が話題になっている。民主主義と資本主義のバランスが崩れ、過度の効率性と利益を追求する超資本主義が、民主主義を危うくしていると説く。国の内部で機能するはずの民主主義が、国境を越えてビジネスを拡大する超資本主義の政策決定に対する圧力で歪められ、貧富の格差を大きくしていると指摘する。利潤を追求するのが目的の企業が、公益に配慮することは考えられず、企業のCSRについても企業目的に外れる以上懐疑的にならざるを得ないと述べている。確かに、弊社でも、ソニーや日本板硝子でも、経営能力が優れていれば、国籍・人種を問わずCEOに任命し、利益を追求するのが企業の目的である。ただ、経営者と株主との間で、民主主義と資本主義のバランスを取るのは、コーポレート・ガバナンスの要である取締役会の役割なのだが、著者はその認識がなさそうに思える。
この本の最終章が“超資本主義への処方箋”とあったので期待して読んだが、法人税をなくして利益は直接株主レベルで負担するとか、企業に訴訟を起こさせないこととか、現実の企業法制と著しく異なる提言だ。仮にオバマ氏が大統領に選出されて、このような改革がなされたら、資本は米国から流出するだろう。ただ、同感できたのは、政府の目標は、その国民の競争力を強化することで、その国の企業の競争力を伸ばすこととは必ずしも一致しないとの主張だ。企業が国境を超えて動いている時代に、企業の国籍で判断してはならない。海外企業を日本に誘致して、資本の流入・新技術の導入・生産設備の建設等により雇用拡大し、日本国内のGDPを増加するのが政府の目標であるべきなのに、実際には逆で、外国資本の流入を嫌悪しているように見えるのは不可思議である。
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